2011年9月4日日曜日

【音楽と社会のリンケージ】

スティーブ・ジョブズを”ロックスター”に、アップルを”ロックバンド”に例えたブログを読みました。「スティーブはもうライブをやらない

確かにジョブズはビートルズやローリングストーンズが出てきた1960年代以降の最高のロックスターの一人だと僕も思います。彼は「世界を変える」と宣言して、音楽を軸にしながら最高の作品群をつくりだし、人々を熱狂させ、実際に世界を変えた訳ですからね。


昨今、音楽周辺ビジネスの可能性をいろいろ議論したり考えたりする中で、いろんな努力や取り組みの問題ではなく構造的に、もとのパッケージや配信を中心とした「音楽産業」というもの自体は、もう元には戻らないんだろうなと感じてます。もちろん音楽の素晴らしさはなくならないし、音楽の力はこれからも可能性は広がっていることは疑わないのですが、だから音楽産業も成立するというのとは話が違うということです。ジョブズのように、次の「ロックスター」は音楽産業から生まれるとも限りませんし。

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そもそも今の音楽産業の発展のきっかけは1920年代頃からの音源複製技術やラジオなどメディアの発展から。テクノロジーの進化は、ビートルズなど大きな才能とリンクして、次々と刺激的な作品や文化を生み出しました。1960年代に若者による「カウンター・カルチャー」なるものが、大きな社会的影響を及ぼすように。日本でもそんな社会運動が起こる中で、若者文化の反抗や主張が音楽と結びつき、音楽は若者の精神に多大な影響を及ぼす存在となっていったのではないかと思います。

1970年代以降は日本の高度経済成長の中で、豊かになる生活の先行指標としてテレビや音楽が位置づけられていたのではないかと思います。歌謡曲、ロック、ニューミュージック、アイドル、化粧品のイメージソング、、曲は社会を反映し、社会に影響を及ぼしました。ステレオ、ラジカセ、カーステ、ウォークマン、次々と革新的な音楽再生装置が出て、若者文化の舞台装置として機能します。ギターを弾けるとモテる、バンドをやってるとめっちゃかっこいい、洋楽に詳しいとクラスで一目置かれる。音楽と社会と文化は密接にリンクしていた訳です。

1980年代以降も、音楽はコマーシャリズム化しながらも、依然、大きな影響力を持ち続けます。アメリカではMTVが放送開始。マイケルジャクソンの「スリラー」発売とあいまってミュージックビデオ時代に突入。日本でもザ・ベストテンなど歌番組やドラマから次々と新しいスターが生まれました。学校の話題の多くの部分が音楽でした。放課後はギターを弾いているやつはいるし、レコードの貸し借りをしたり、ピンクレディのフリ真似を練習する女子がいました。企業はメセナと称して音楽に対してお金を出しました。ここでも音楽と社会と文化は密接にリンクしていたと思う訳です。

そして1990年代、CDの普及とともに一足遅れたバブルが音楽業界にやってきます。ドラマやCMなどのタイアップ曲を中心にミリオンヒットが連発。ビーイングブームや小室ブームも巻き起こりました。
しかし、このへんから、音楽と社会や文化のリンクが少し外れてきたのではないかと思います。若者の中で、音楽は消費される「商品」のように位置づけられるようになってきたのではないか。もちろん全ての音楽が、という訳ではありません。それでも若者文化の中で、音楽の占める割合、濃度は確実に下がり始めたのではないかと思う訳です。


そして2000年代に入って音楽パッケージは右肩下がりトレンドに入ります。パッケージや配信は落ちても、ライブが発展する、物販やコミュニティ運営で補完する、、というのは一つの方法論として有りだと思います。でも、それは方法論であって本質ではないように思う訳です。



1960年代からある時代まではそうであったように、今後、音楽や音楽を中心とするアーティストが大きな影響力を持ち得るとすれば、それは、社会や文化へのリンケージによってではないか。ビートルズは最初はともあれ、少なくともジョンは音楽で世界を変えようとしました。マイケルも同様です。

そういった意味で、日本においては震災に端を発する問題を始めとした様々な社会問題やグローバル化、ソーシャル化の流れの中でのアイデンティティや文化に関わること等が音楽の力とのリンクがとれ始めたときに音楽も新しい可能性が広がっていくのではないか。もはや、いい曲、いいライブをすることだけがアーティスト、スターの要件ではなくなっていくのではないか。そんなふうに思う訳です。

参考)
◆スティーブはもうライブをやらない
http://blogs.itmedia.co.jp/closebox/2011/08/post-9a24.html
◆ソキウス「音楽文化論」
http://www.socius.jp/lec/18.html
◆さよならポニーテールは「アーティスト」や「ミュージシャン」ではなく、、、。
http://natalie.mu/comic/news/55497
◆坂本龍一の「こどもの音楽再生基金」
http://www.schoolmusicrevival.org/

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