2011年12月4日日曜日

【意思決定における儲かる度、わくわく度の話】

ビジネスにおいては、常に大小様々な意思決定をしていかなければなりません。経営とはヒト、モノ、カネといった限られたリソースをどこに投下してリターンを目指すのかを考えることと言えるかもしれません。

辞書によれば「意思決定」とは「ある目標を達成するために、複数の選択可能な代替的手段の中から最適なものを選ぶこと」とありました。やりたいこと、やれそうなことは沢山あるかもしれません。しかし成果をあげるためには選択し集中することが定石です。網羅して拡散していてはリターンは得られないからです。

このように「意思決定」というのは経営の根幹ということもあり、先人が意思決定をサポートするフレームワークを山ほど考案してくれています。SWOT分析、PEST分析、3C分析 、アンゾフマトリックス、BCGマトリクス、バリューチェーン分析、、。一見小難しい感じもしますが、一度覚えてしまえば考える時間が大幅に短縮できる効果があるものです。

-*-*-*-*-*-
そんな中、先日、新しいエンタメサービスの企画を議論している中で、新たな意思決定フレームワークが思い浮かびました。

それは「もうかる度軸」と「わくわく度軸」による2×2マトリックス分析です。

◆「もうかる度軸」=収益基準
事業として企画を考える限り、収益を無視する訳にはいきません。収益性をブレイクダウンすると、市場規模、市場成長性などの外部分析、自社リソースなどをふまえた実現可能性、既存ビジネスとの近接性、強みを生かす競争優位性がとれるかなどの内部分析などに分解されると思います。それらをふまえ、儲かる可能性があるかないか、これを冷静に判断する必要があります。情報流通量が増大し、ソーシャルメディアが普及する昨今、ユーザーから、その分野において「最高」、「No1」だと思われなければ共感は得られにくいです。また環境変化のスピードがあがっている昨今、「最速」で進めなければ他に負けてしまいます。なんとなくでは収益をあげることもできないことを肝に命じて判断すべきです。

◆「わくわく度軸」=価値基準
一方で事業である以上、その社会的意義にもとづく志、価値観があるはずです。特にそれがエンターテイメントに関わる仕事であれば、そこに「わくわく感」がなければ良いものができるはずもありません。その昔、世阿弥は能の心得として「おもしろきこと、めずらしきこと あたらしきこと」に挑戦しなければいけないと説いたそうです。自分がわくわくしないことで、ユーザーがわくわくしてくれる筈もありませんよね。仕事のモチベーションがあがらなければ品質も効率も悪くなります。

このマトリックスによって企画アイデアを4っの事象に区分することができます。

①「わくわくする」且つ「儲かる可能性がある」企画
②「わくわくしない」でも「儲かる可能性がある」企画
③「わくわくする」でも「儲かる可能性が低い」企画
④「わくわくしない」且つ「儲かる可能性が低い」企画

④は即、却下ですよね。儲からないし、わくわくしないことを実行する意味はありません。
逆に①は即、実行決定です。
判断に迷うのは②です。わくわくしない理由を分析し、わくわくできるモノにできる可能性の有無がポイントです。
③も判断が必要です。収益性が低くても社会的に付加価値がある、あるいは他サービスを含め総合的に考えた収益があがるのであれば実行すべきという判断もできます。いかに収益性を高められるのかということも考え抜くべきですよね。

意思決定とは選択すること。捨てることです。全部盛りでは成功しません。何かの本にこんな例がありました。塩ラーメンしかメニューにない店と、いろんなラーメンや蕎麦やカレーライスもやっている店でどちらが成功しそうか。足し算ではなく引き算を極めること、それが成果を得るポイントだと考えます。



.

2011年12月2日金曜日

【モノとコトのコンバージェンス】

前回は音楽ビジネスにからめて「モノからコトへ」というテーマで考えてみました。モノを所有することより、体験、共感、知識、絆、、というコトに価値観がシフトしている世の中を見据えると、”コト”にフォーカスすることによって、新たなビジネスの可能性が広がるんじゃないかという仮説です。

しかし、これはモノを売るのをやめて、コトだけで儲ければいい、という話ではありません。価値観の重心は「モノからコトへ」移っているとしても、それは製造業をやめててサービス産業にシフトしようっていう単純なことではないはずです。

ここで重要な視点は「モノからコトへ」の流れの中で、いかに「モノ」と「コト」を融合させたビジネスモデルをつくれるかということではないかと思う訳です。

-*-*-*-*-
例えばモノを売っている製造業にしても、モノを機能として売っているというより、コトを提案した売り方に移行しているように思います。

HondaのHPを覗いてみると「大人の自由がそこにある」CR−V、「毎日をスペシャルに」Life、というコピーに出会います。昔「こどもといっしょにどこいこう」Stepwgnっていうのもありました。要するにHondaはコトとして提案をしながら自動車というモノを売っているとも言えます。
最近のエコカーもユーザーはその性能というよりエコという社会的な付加価値のほうに意義を見いだして買っている訳ですものね。

サクラクレパスという会社は初めから「モノ」を売るのではなく、絵を描くという「コト」を普及させることにより、売り上げを伸ばしてきたといいます。学校を巻き込んで絵のコンクールをしたり、幼稚園に子供に絵の描き方を教える講師を派遣したり。結果クレヨンというモノも売れるようにする。

日本酒メーカーの菊水は「モノとコトの融合で日本酒を面白くする」といっています。「お酒そのものにこだわるのも大事ですが、もっとこだわるべきは、お酒がつくりだしてくれる愉しさ」。良い酒とは単に酒質の善し悪しじゃない、ここに面白さや楽しさといったものが付加されてはじめて「良い酒」の資格があるんだと言っています。

-*-*-*-*-
一方、「コト」を売っているサービス業にしても、最終的なマネタイズポイントはモノを売ることによって成立していることも多いと思います。

スターバックスはコーヒーというモノを売っているのではなく自宅とも職場でもない「第三の場所」を提供するんだ、という理念を掲げています。でも代金はコーヒー代(モノ)として回収しています。

Appleの本質的な提供価値はアプリとWEBサービスを含む全体のエキスペリエンスだと思いますがメインのマネタイズポイントはiPhoneなどのデバイスですよね。

前回もふれたAKBも握手という体験(コト)を提供しますが、代金はCD代(モノ)で回収したりします。ライブ興行も、最終的に利益を稼ぐのは物販だったり、飲食だったりのモノである場合があります。

来春開業の渋谷ヒカリエの新店コンセプトの中には「モノ・コト・キモチが融合した」出会い、発見の場を目指すというキーワードがありました。単に商品が整理され区分されたデパートじゃないんです、、ということです。

-*-*-*-*-
単純にモノが機能や性能で売れる時代は終わりました。

でもモノの提供によって価値あるユーザーエキスペリエンス(コト)を提供し、その対価をモノを売ることによって回収するモデルは有効だと思います。

逆に価値あるコトを起こして、そのコトをモノに転換して売って回収するというモデルもあると思います。

そんなことを考えるとキモチを込めた”モノとコトの融合”、そこにもビジネスのヒントがあるのではないか?、そう思う訳なのです。


.