2011年1月28日金曜日

【ティッピングポイントの話】

会社でUstreamを使った企画が行われました。改めて感じたのは、放送とは違うユーザーコミュニケーションの感覚でした。実数としての視聴者数が明らかになり、感想がリアルタイムでTwitterでやり取りされる訳ですからね。地上波テレビで何千万人も同時に視聴しているメディアと数十人から始まるUstream型メディアを同じ観点で語ることはできないと思うので、放送番組とは違う方法論が必要です。何より新鮮だったのはTweetによる視聴ユーザーの参加感でした。現場でもスタッフ、演者含め、やった感満載だっと伝え聞いてます。

さて、そんな中で、今回は最近読んだ「ティッピングポイント」という本の話です。ティッピングポイントというのは、いろんな事象を捉えたとき、ある地点を過ぎると、一気に変化が起きることがある、一気に何かが傾く(Tipする)瞬間がある、ということを説明する概念です。
ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すか

ここで語られていることは、流行や慣習など社会現象の変化や、口コミによる伝播、前回話のNYの1990年代の犯罪の激減のような変化にみられる特徴についての分析です。 社会変化や情報伝播の拡がりかたには、まるでウイルス感染のような共通項が見出され、その特徴には大きく3つがあるようです。

1. 感染的特長がある。
たいして宣伝していないのに商品が売れ始めることがあります。例えば、ある地域のほんの数十人の若者で流行始めた靴が全国で流行したり。 前回のNYの例では、地下鉄の落書きとを撲滅するという、ごく限られた事象に影響を及ぼすことによって、人々の行動様式に変化を及ぼし、それが、いつの間にか街全体の行動を変えました。要するにごく少数から、広い範囲に”ウイルス”を感染させていったと想定できる訳です。

2.小さな変化が大きな結果をもたらす。
どんな大きな変化も、最初は、ほんの小さな変化から出発しています。インフルエンザ対策で空港の水際対策に力を入れるのは、この為ですよね。一人が感染すれば、数日間~数週間で数十万人に感染する可能性があります。

3.変化は徐々にではなく劇的に生じる。
生活環境や社会問題は徐々に改善されたり悪化したりすると思いがちですが、実は変化というのは、ある臨界点を超えたときに一気に起こるという指摘です。 (いわゆるブレークする、という感じなんでしょうか)

  
大きな変化や感染伝播が起こる場合の特徴は何なのかを探れば、どのような戦略をとれば、大きな変化や効率的な情報伝播ができるかのヒントになりそうです。 「ティッピングポイント」は2000年に発行された本なので、現在のようなソーシャルメディアについての論考は含まれてませんが、今こそ、そんな感染的な情報伝播の可能性が拡がっていますよね。

とにかくマスメディアだ、という時代は終わりました。ながら見の数万人~より、むしろ積極的にイベントに参加しているコアな数百人の中から、伝播拡散のウイルスが生まれるかもしれません。 ソーシャルメディアは情報拡散の強力なツールになります。 そこでのポイントは、どんな人に、どんな情報を、どういう状況で提供するのか、ということです。 数で評価するだけではなく、いかに伝わったか、ということが重要になっていると感じております。

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2011年1月25日火曜日

【割れ窓理論の話】

前回は、人や組織の意識や行動を変えていくために、まず人の置かれた環境から変えてしまうという方法論の話をしました。 うまくいっているかのごとく振る舞い、うまくいっているような環境をつくり、うまくいっているケースの表面的なことから真似てしまうというのも有効な手立てだよね、ということです。

関連した有名な話で「割れ窓理論」というのを知っているでしょうか? 

Wikiによれば「割れ窓理論」とは、、

『軽微な犯罪も徹底的に取り締まることで凶悪犯罪を含めた犯罪を抑止できるとする理論。犯罪学者ケリングが考案。 「建物の窓が壊れているのを放置すると、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全て壊される」との考え方からこの名がある。』 というものです。

ニューヨーク市がこの理論を採用して成功させた治安対策の話があります。1994年にジュリアーニ市長は、ケリングを雇い、この理論を徹底的に実践しました。 結果、5年間で殺人事件の発生は60%以上減少し、年間60万件あった重罪事件の発生は半減しました。これは通常では考えにくい変化でした。


この変化の要因について麻薬取引の衰退や住民の高齢化、雇用率の改善など社会問題の変化を指摘する人もいましたが、そういった変化は別にニューヨークだけに起こっている変化ではなく、ニューヨーク市だけが、なぜ飛びぬけて犯罪の減少に成功したかの説明にはなっていませんでした。

じゃあ、ジュリアーニやケリングは何をしたのか。
まず行ったのは荒れた地下鉄に特化した徹底的な浄化作戦でした。ケリングは「地下鉄の汚れや落書きは地下鉄崩壊の象徴だ」と主張し、予算を確保し、偏執的なまでに地下鉄の落書きをなくす対策をとりました。 地下鉄の折り返し場所に洗浄基地を儲け、その場で落書きを消すか、できなければ、その車両をはずすぐらいの徹底さで取り組みました。 公共物破壊者達への有無を言わせぬメッセージをあらわした訳です。

次に市が地下鉄の重罪事件を撲滅するために行ったのは、無賃乗車の撲滅でした。落書きと同じように、無賃乗車こそが、無秩序の象徴である小さなしるしだと捉え、一見して的外れとも思える軽犯罪の検挙を徹底したということです。当初、警察も軽犯罪に対して人手とお金をかけるのは効率的でないと主張しましたが、軽犯罪や泥酔など迷惑行為を徹底的に取り締まり、連行していくうちに、重罪容疑者や武器所持などが次々とつかまるという副産物もうまれました。

ニューヨーク市は、一見して取るに足らない生活環境犯罪の取り締まりを徹底し、凶悪犯罪激減につなげたということです。

組織風土や職場環境を根本問題解決するのために何をしなければいけないか。割れ窓理論はヒントになると考えます。「~を改善しよう」といくら、あいまいなお題目をあげてみても実効性が伴うとは思えません。そうではなく、問題を象徴している”小さなしるし”を見つけ出し、個別具体的な指示を徹底して行うことが有効な方法論だと考えます。前回ご紹介した川上監督はトイレのスリッパをそろえることにチームワークの乱れの“しるし”を見出したということですよね。

会社においても、オフィスや会議室の乱れ、会議への遅刻、内職などを見過ごしていると、それが組織風土の悪循環になってしまいかねません。こういう”しるし”を見逃さず、上位者が率先して徹底した改善を行っていくことが風土の改善の第一歩だと考えます。 そんなことは、たいしたことではない、若いやつがやっておけ、、という考え方こそが、割れ窓として無秩序を生む土壌になると考えます。 


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2011年1月21日金曜日

【形から変えてしまえ】

最近、読んでいる本の中に、組織や人の意識や行動を変化させていくためにどうすればいいのかヒントになるような話がいくつかありました。本をご紹介すると。。

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①職場スイッチ  ~ひとりでもできる会社の空気の入れ換え方。
どうすれば風通しのいい、やる気を高めてくれるような職場、家庭、人間関係をつくれるのかといった考え方やアプローチがコーチングの方法論で展開された本です。

②スイッチ ~「変われない」を変える方法
ごく普通の人たちが、会社や国を動かすような変化を生み出した例を豊富に挙げながら、それらに共通する「変化のしくみ」を明かしていくという本です。

③ティッピング・ポイント ~急に売れ始めるにはワケがある。
変化はいかにして起こるのか、ブームはいかに発生するのか、噂はいかに感染するのかなど、その仕組みを様々な事例で分析した本です。

④ユダヤ人大富豪の教え ~幸せな金持ちになる17の秘訣
成功を収めている人の思考や行動様式はいかなるものなのか。お金持ちになるための心構えやアプローチについて書かれた本です。
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これらを読んでいて、少なくとも上記の本に共通した考え方があったように思いましたす。それは、、、
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1.本質を変えたいなら、まず形から変えてしまえ。
2.大きな変化を起こしたいなら、まず単純でシンプルなことで
  変化を起こせ。
3.うまくいってない事を分析するのでなく、うまくいってることを
  探してそれを広げろ。
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といったことです。

往々にして人間は、思考がネガティブなほうに傾きがちだという本質があるそうです。言語体系においてもネガティブな感情を表す言葉は、ポジティブな感情を表す言葉の2倍ぐらいあるとの分析もありました。
山積する問題点に目がいくと、人間はその分析を始めて、いったい何が悪いのか、誰が悪いのか、どうすればいいのかを延々を考え、その問題の山が大きいと、ついには行動することをあきらめ、思考が停止してしまいます。

これらの本で共通していることは、だったら、そんなことは後回しにして、まず、単純に表面的な形から変えてしまえ、、というアプローチです。例えていえば、、

●「うまくいってないのに、まるで、うまくいっているかのごとく
   振舞ってしまう」、
●「うまくいってれば、きっと行うだろう行動を、うまくいって
   なくてもやってしまう」、
●「問題だらけの職場の中で、たまたまうまくいっている事例が
   あれば、その表面的なやり方だけを真似てしまう」

ということです。

ヒネクレ者は、そんなことで本質が変わる筈がないと思うようですし、実験の結果も信じない人が多いようです。でも結論はそういうことなんですね。こういうことを信じられなくても、とにかく、やってみるということですなんです。本に書いてあった事例を紹介します。

●挨拶を2倍の声でした話。
ベトナム戦争で戦死者が多くなって士気が下がってしまった前線基地に派遣されたコンサルタントが司令官に指示したのは 「挨拶を2倍の声でするよう全員に徹底してください。それだけでいいです。」 半信半疑だった基地でしたが、一週間も経たず効果は現れたそうです。兵士の顔に暗さが消え、食事中や休憩時間の会話が増したという実話です。

●意味もなくご機嫌になる。
不機嫌な人を入れたチームと、上機嫌な人を入れたチームでは、あきらかに後者のパフォーマンスのほうが良いという実験結果です。不機嫌な空気は伝染性が強く、部署のパフォーマンスを低下させることが証明されているそうです。だったらみんなで無理矢理、上機嫌になってしまうのも手ですよね。

●譲れない小さなルールをつくる。
V9を達成した当時の巨人の川上監督がチームワーク向上のために繰り返し選手に指示したことは「トイレのスリッパを揃えろ」。 あほらしいルールでも雰囲気はかわるんですね。ここでのポイントは徹底することです。この部署は、或いは、この課長は、決めたことをちゃんと実行するんだな、というメッセージにもなります。

モノゴトは意外にシンプルなことが解決策の糸口だったりするかもしれません。人を変えたければ、環境を変えてしまう。こんな話は、まだまだありそうです。
職場スイッチ―ひとりでもできる会社の空気の入れ換え方スイッチ!ティッピング・ポイント―いかにして「小さな変化」が「大きな変化」を生み出すかユダヤ人大富豪の教え


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2011年1月18日火曜日

【引き続きコンセプトの話】

先週は近頃話題の"リアル脱出ゲーム"というのを体験してまいりました。ネットコミュニティが進展する一方で、こういったリアルな場でのインタラクティブ体感型コミュニケーションイベントみたいなものも、今後も増えていきそうだなと思いました。これはSCRAPっていう会社が企画しているようですが、今後、東京ドームからの脱出や恋愛相談王決定戦なども開催するみたいです。コンセプトを明確にして、うまく場を提供すると、人はわっさり集まりますからね。 http://www.scrapmagazine.com/ 
 
さて、前回は、ヒットメーカーさん達のコンセプト発想についてお話しましたが、それに関連して感想コメントもいただきました。内容は、、、 

『秋元さんや任天堂の方が言うところの「マーケティングはやらない」「ユーザーの声は聞かない」というのは彼らだからこそできることなのではないかと感じます。彼らはきっと、誰よりもマーケティング感覚とユーザー感覚をもっていて、過去の経験や取り巻く背景を読み解きながら、頭の中で自身の考えに突っ込みを入れながら、検証しているのではないかと思います。結果、自分の考えがユーザーに受け入れられている「姿」が見えるからこそ、(それが見えていない)他の人が反対しても、自信を持って貫くことができるのではないかと。だから、マーケティングをやらないこと、ユーザーの声を聞かないことだけを真似すべきではないし、自分も「根拠のない単なる思い込み」で考えを進めることのないよう客観的な視点を養っていきたいと思います。。』

という主旨だったかと思います。全くもって、その通りですよね。
秋元さん達にとって“マーケティングしない”、“ユーザーの声を聞かない”という意味は、“自分で考え抜いた仮説なくして、何を調査、ヒアリングしても、良いアイデアにはつながらないよ”、と意味に近いのではないかと思います。 日経ビジネスのヒット番付も1位Twitter、2位 iPad、3位 食べるラー油、4位 ハイボールでしたが、いずれも、ユーザーに事前アンケートで商品サービスのコンセプト説明をしても、きっとニーズがあるかないかなんてわからなかったのではないかと思います。でも、企画者の思いと仮説はあったはずですから。
逆に、膨大な調査データやシュミレーション資料があっても往々にして、うまくいかないのが”お役所仕事”ですよね。政治家がハコモノ公共投資予算案を通すために、役人に机上の資料をつくりまくらせても、そもそものマーケティング感覚とユーザー感覚が欠如している場合に、ユーザー不在の道路や空港やイベントホールが出来上がってしまいます。
ヒット商品、ヒットサービス、発展する企業の背景には、必ず出発点となるコンセプトがあると思います。そして考え抜かれたアイデアであれば、必ずしも膨大なマーケティング説明資料がなくても、そのアイデアのコンセプトは説得力をもって簡潔、明瞭に答えられるはずだと思います。 

★アマゾンの事業コンセプトについてジェフ・ベソスは「我々のビジネスの中核はモノを売るのではない。我々のビジネスの本質は人々の購買決断を助けることにある」といっていたそうです。
だからユーザーレビュー機能やレコメンエンジンなどのシステムに膨大な投資をしたり、マーケットプレイスを仕掛けたりしたことにつながっています。このコンセプトのもち方が他のネット通販ビジネス会社との差異になったんですね。


★スターバックスの事業コンセプトは「我々は人々に家、職場ではない、第三の場所を提供する。人々にゆったりとした雰囲気の中でリラックスするという経験や文化を売ること。コーヒーそのものは、そのための手段である」ということのようです。
これを実現するために、店の立地やインテリア、スタッフの行動、メニューをどうするかを考えているという順番になっています。コーヒーショップが成長するとは思わなくても場の提供に商機を見出したんですね。


企画も事業コンセプトもみんなに簡潔、明瞭に説明できるぐらいに考え抜いて実行してことが必要ですよね。 もちろん、それだけで成功するほど甘くありませんが、失敗する確率を下げたり、失敗から学ぶことはできるかもしれません。


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2011年1月13日木曜日

【秋元康さんとかヒットメーカーさんの話】

年末の日経ビジネスで2010年ヒットランキングの特集の記事がありました。1位Twitter、2位 iPad、3位 食べるラー油、4位ハイボール、5位 Andriodスマートフォン、、。 音楽関連では10位にAKB48が入っていました。 そんな流れでAKBのプロデューサー秋元康さんのヒットの極意のインタビューが載っていました。

『自分が面白いと思うかどうか。ヒット商品を生み出すポイントは、この一点に尽きます。自分が面白くないものを、大衆が面白いと思うわけがない。ヒット商品には共通点があります。それは大衆の共感を集めたかどうか。「こういうものが面白いはず」と「自分が心底面白いと感じる」の違いが、ヒットが生まれるかどうかの分かれ目です。ちょっとした上から目線が大衆の感覚との誤差になり、共感をそいでしまう。

僕はモノをつくるときにマーケティングは一切やりません。だって、今流行っているものは、もう過去のものだから。もっと、自分の本当の気持ちや本当の声を聞いたほうがいいと思います。

面白い企画、ヒットする企画は多数決からは生まれません。たとえ1対9でも、誰か1人が辞表を出してでもやりたいというものが当たる。6対4で、とりあえずやってみようかというものは絶対に当たらない。。。』
等々のことが書いてありました。

念のため、僕は、ヒットが全てと考えている訳でもなく、マーケティング調査やユーザーターゲット分析なんてムダだと考えている訳でもありません。

でも世の多くのヒットメーカーさんたちは、よく秋元さんと同じような話をするんですね。スーパーマリオを開発した任天堂の宮元さんという人も「面白いとはどういうことか、なぜそのゲームは面白いのか、ここをきちんと詰めたコンセプトがなければゲーム開発は始めない。その答えは、結局われわれの頭の中にしかない。僕はコンセプトを考えるときに、営業部隊やユーザーの声はきかない」と言ってます。 
最終的には、調査データより、五感を使え、自分の感覚を信じろ、ということかもしれませんね。

リクルートで「とらばーゆ」、「じゃらん」、「フロム・エー」など数々のヒット誌を創刊した倉田さんという方も、まずアイデアを自分の身近な人たちにしつこく聞きまわって感触を探ることから始めるという話がありました。

ユーザーターゲットを考えるときも、年代や嗜好タイプで、おおざっぱに設定するだけでなく、データに頼るだけでなく、具体的な人を想定することが有効だという話も多いです。

ウォルマートも、実際に存在する一人の女性客を想定して「それってナンシーが喜ぶだろうか」という基準で判断を議論するという話が本に載っていました。 

アスクルも、小規模会社の総務担当の女性、“久美子さん”を想定してサービスコンセプトを固めたという話がありました。

アーティストがつくった名曲も、誰か一人に向けて書いたものが多くの人の共感を呼ぶということがありますよね。

ある戦略本には、「コンセプトをないがしろにして戦略立案、実行を始めてしまうと、結局、誰も欲しくない商品開発になったり、投資をムダにしてしまう。だからこそ、コンセプト構想にじっくりアタマを使い、手間隙をかけるべきだ」と指摘されていました。秋元さんほか上記の例でいうと、そういうコンセプトはデータ上のマーケティングだけからは出てこないと言っているんですね。

ツールや方法論は真似できても、アタマを使って練られたコンセプトと、そこから展開される戦略思考と蓄積された組織能力は簡単には真似できません。逆に言えば成功している他社事例の方法論だけを模倣しても、うまくいかないということもあります。 そのぐらいコンセプトは出発点として重要だという話です。 このへんの話はまた別途で。

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2011年1月11日火曜日

【“ディズニーの教え方”の話】

ディズニーランドのホスピタリティの素晴らしさは、どうやって実現してるんだろうと前から関心がありましたので週末に書店で「9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方 ~素質は問わない」という本が並んでいたので買って読んでみました。

9割がバイトでも最高のスタッフに育つ ディズニーの教え方

先にリッツカールトンの話もしましたが、リッツもディズニーもお客様に接するスタッフがサービスの質を左右します。常に誰かに上司に見られているわけでもないのに、スタッフは主体的、自主的に考え、行動します。なぜなんでしょう?  人の採用に秘密があるんでしょうか? 確かにリッツの場合は、長い時間をかけて人を採用するらしいです。しかし、その基準は、経験が豊富だとか、スキルが高いということよりも、リッツの理念、哲学に共感し、一緒にお客様の喜びのために働けるか否かを見極めるということでした。 スキルは後からでも何とかなるっていう考え方なんですね。

その点、ディズニーランドは、運営を実際に支えているのはスタッフの9割以上を占める1万8000人のアルバイトです。さらに半年で半分は入れ替わるらしいです。 本によるとディズニーランドは基本的に、アルバイトスタッフの採用は来るものは拒まずの姿勢が強く、笑顔がちゃんとできれば、基本採用するとの話がのっていました。 そういうバイトを一流のサービスができるように育てているということですよね。 そんな、いわゆるプロフェッショナルではない学生バイトで、なぜ、高品質のサービスが実現できるのか。 ジャングルクルーズで、なぜ同じことの繰り返しを一生懸命できるのか? なぜトイレがいつもピカピカなのか? なぜ冬にも芝生が青々しているのか? 

ディズニーランドの場合は、そもそも、ディズニーが好きで、お客様の笑顔がみたいという人が基本応募してくるということも大きいと書いてあります。 その上で、採用されると、まず研修があり、そこでディズニーの理念、哲学が教えられます。そしてディズニーのスタッフとして清掃係から売店販売員に至るまで、その仕事の意味を叩き込まれます。「全てはお客様のハピネスのために」。 清掃係はゴミを拾うのが仕事ではなく、ゲストの安全を確保し、コミュニケーションし、楽しい思いをもってもらうために存在するという位置づけが説明されるんですね。だから皆、プライドをもって自分の仕事を遂行します。

もちろん、ディズニーのことですので、品質を維持するためにマニュアルはちゃんとしたものがあるようです。しかし、一番の肝は、やっぱりマニュアル以外のところにあるということなんですね。 個々のスタッフが、哲学やミッション、行動指針を理解し、お客様の安全を優先し、今、何をすべきか、その場で自分で考え、工夫させる。 その為にスタッフ一人ひとりに一定の権限を与え、リーダーシップを発揮させるということが重要なんだとありました。

ここでは金銭的なモチベーションではないところで、成立しているというのもすごいです。アルバイトも昇格するらしいですが、本によれば金銭面で昇給することはないと書いてあります。新人の面倒を見たい人、指導したい人を昇格させ、そのリーダーシップのもとでチームとしての成長を目指す。

密なコミュニケーション、声がけをし、チームで集まって、常に改善点を探す。そして、いいこと、素晴らしいことをすると、上司アルバイトの人が、「今の行動はよかったね」、「さっきの笑顔は最高だったよ」などと声がけしたり、カードを渡したりして褒める。 こういうことがバイト間で行われている仕組みがあるんですね。

僕はディズニーランドでバイトをしたことがないので、よくわかりませんが、人のモチベーションを高め、品質の高い仕事をするため、経験やスキルだけでない、アプローチがあるようです。
なにか参考にあるところがあるような気がしましたので紹介まで。


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2011年1月6日木曜日

【宇宙戦艦ヤマトの話】

2011年が始まりました。そんな中、正月休みに、ふらっとシネコンへ行きまして、ちょうど時間が合った「SPACE BATTLESHIPヤマト」を観てまいりました。(期待してなかった分、すごく良かったです。)

Space_battleship

ヤマトに志願した乗組員全員が目的を共有し、それぞれの持ち場で主体的に時には自らの命を犠牲にしてまで全力を尽くしていきます。なんたって地球に残した人たちの期待を一身に背負っている訳ですからその重責は半端じゃありません。 ガミラスからの情け容赦のない攻撃にさらされ、船は荒波どころか、九死の一生の連続で、満身創痍で目的地イスカンダルに辿りつきます。。。

この物語をみていて、“ヤマトの登場人物達が何をしているか”をふと冷静に考えてしまいました。「次から次へと意思決定をしてるということなんだな、」と。

イスカンダルに本当に行けるのか?、そもそも、そんな星が本当にあるのか?。そこに行けば放射能除去装置が手に入るのか? 何の確証もない。罠かもしれない。でも、そこにしか希望がないなら旅立つしかない。「もう無謀だ、無茶だと言っている場合じゃないんだ!」 防衛長官は叫びます。

テストもしていない波動砲を使うのは無謀だ、だが、ここで撃たなければ、いずれにしてもやられる。ここで仲間を犠牲にしなければ全員が死ぬ、大義のために何をしなければいけないのか。
、、、等々、登場人物達は、わずかな希望に賭けて、これでもか、という程の意思決定をしていく物語なんですね。

倒れた沖田艦長に代わり指揮をとることになった古代進(キムタク)は悩みます。 仲間を見捨てた僕には指揮をとる資格なんてない。「僕は沖田艦長にように淡々と指揮をとることなんて出来ません!」 そこで沖田艦長が古代に言ったのは「指揮をやったものにしかその重圧は分からないんだよ」と。
!そうか、あの百戦錬磨の沖田艦長でさえ、意思決定し、指揮命令をすることに迷い、重圧を感じ、苦渋の決断をしてきたということなのかと。 
ヤマトの場合はわかりやすいです。一人一人が迅速に自分の責任で意思決定をして行動し、対処していかなければ、仲間が死ぬ、自分が死ぬ、地球の希望が途絶えるということですから。 戦闘オペレーションにおいては、意思決定が文字通り運命を決めます。
でも考えてみれば、意思決定が運命を決めるのは戦争だけではありませんよね。ビジネスだって同じなんです。人が死ぬことは少ないですが、一つ一つの意思決定が会社の運命を左右している意味では同じです。
波が低い海では、大きな意思決定をしなくても、オペレーショナルに進んでいくことは可能です。しかし荒波になってくると全乗組員の主体的でベター/ベストな意思決定の集積がなければ転覆することだってありえます。
荒波にもまれ、制約条件や問題が山積する中での意思決定というのは、不確かで、難しいものです。しかし希望のあるほうに向かって選び取っていかなければいけないものということですよね。

マクドナルド原田社長も日経ビジネスの新年対談で次のことを言っていました。

『日本人は「これが課題です」、「こんな問題があります」と、バーッと言いますよね。一方、アメリカ人は絶対に「問題です」なんて言いません。“Challenge and opportunity.”ですよ。仕事に対する姿勢が全く違う。最大の機会というのはどれだけあって、それに向かってどこをゴールとするのか。それを踏まえて、目の前、第一歩はどこまで行くのか。日本人もこういうふうに考えないと駄目なんです』、、と。

ヤマトの航海も課題と問題だらけでしたが、沖田艦長も古代も「問題だ」とは言いませんでした。「必ず生きて還る」、「可能性を本物の希望に変えよう!」と戦い続けます。

まさに日本が忘れかけている“Challenge and opportunity”ですよね。



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