2011年7月5日火曜日

【共感・共創・共有社会の話】

前回は消費社会の成熟によって、商品やサービスは人から「最も愛される」ぐらいにならないと生きていけない、、みたいな話を紹介しました。今回は企業や個人が思考の枠組みをどう変えていかないといけないか、、みたいなことを調べたり考えたりしてみました。

◆「マーケティング戦略」の限界
博報堂ブランドデザインの宮澤さんという方は「応援したくなる企業の時代」という本の中で次のようなエピソードを紹介しています。

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長年、人気商品として販売してきた商品の売れ行きが、かんばしくなくなってきた。そこで企業のマーケティング担当者が分析したところ、特に若い世代の購買が減少していることがわかった。そこで担当者が何人かの一般の若者を集め、「商品のどこがよくないのか」、「どこをどう改善すれば欲しいと思うようになるか」について率直に聞いてみたそうです。すると驚くような答えが返ってきた。若者たちは異口同音に「よくないところ、不十分なところがあるとは思わない」、だから「なにかを改善したところで、この先その商品が欲しくなるとは思えない」と。。担当者は、思わず絶句した、、という話です。
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既存のマーケティングアプローチの延長線上に解決策がなくなっているということが起こりつあると思います。消費者目線を徹底し、ニーズを探り、ユーザーが満足する、他社より魅力的な商品をつくるんだ!ということだけでは、もはや通用しない世の中に突入しているということなんですね。モノとかサービスが一定水準を越えたら、細かい差異なんてどうでもよくなる。そうすると、前回の話のごとく、結局、選択基準は「一番安いか、一番性能がいいか、一番愛されているか」に集約されちゃうのかも、、と思います。

◆所有価値の低減
更に言えば、ちょっと前までは機能していた「所有価値」というものも相対的に低下しているように感じます。以前は多くの消費者は機能性など商品そのものの価値に加え、そこに付加されたブランドという名の「付加情報」にも喜んでお金を払っていました。モノを所有することで、生活シーンの演出や精神的満足につながるということでしょうか。端的な例としては、高級ブランド時計をつけている私っておしゃれでしょ。高級外車に乗っている僕ってかっこいいでしょ、、とかいう具合です。モノやサービスの購入を通じて精神面の満足も買っていたわけですよね。
しかし消費社会も成熟してしまうと、たいていのモノは十分に足りています。特段の不自由のない生活をおくっている中で、これ以上何かを所有することで、自分が今より幸せになる、満足度があがる、感動するとは、思えなくなっているということだと思います。

◆経験価値、共感を生む場の提供
じゃあ企業は生き残るために何をすればいいのか? 一つの方法論は、先の本にも載っていた「経験価値」の提供だと思います。 モノよりコトに価値がシフトしている中で、「個人で何かを所有すればいいことがありますよ」、ということの説得力が低下しています。それよりも、「皆で、何かを一緒に経験する」ということのほうに魅力が移っているように思います。
つまり「所有」ではなくて、経験を「共有」できる場の提供、そこへのアクセスの手段の提供が本質的な価値として重要になっているということではないでしょうか。

その昔、Walkmanは、それを所有することによって、音楽を外に持ち出せる、生活シーンもかわる、、そんな提案型の商品でした。 しかしiPhoneやiPadは、デバイスを所有した後も、アプリやWebサービスへのアクセスを通じて、常に新しい経験を提供しつづけます。

KDDIが提供している au Smart Sportsもケータイを使ったスポーツライフを提案しています。仲間との体験の共有の場も提供しています。 http://www.au.kddi.com/sports/service/run_walk/index.html

SNSやソーシャルゲームは、そのアプリ機能性に価値があるのではなく、人と人とのつながりという経験価値が本来的な価値です。

昨今、はやりの脱出ゲームも、何かを所有することもなく、生活シーン云々でもなく、その場で得られる体験に対して価値を見出されているわけですものね。

◆「共感」、「共創」へ
もう一つは、そんな「共有」を通じて、生活者から「共感」を得ることだと思います。もはや「消費者目線」という言葉さえ企業からの上から目線な感覚なのかもしれません。 消費者とともに社会に貢献する姿勢を示し、一緒に行動する(共創)。 B to C から B into C 、B with C へ感覚を変える。企業が自らの理念や志を高くかかげれば、それに共感してくれる人は、その企業からモノを買ってくれるかもしれません。

ハイブリッド自動車が売れるのはコスト観点ではないですものね。同じ洋服を買うのでも、その企業姿勢に共感できるところから買う。 企業とともにいい社会をつくっていく、、、そんな感覚の社会にどんどんなっていくのではないかと思います。

参考:
「応援したくなる企業」の時代
http://www.exp-branding.com/  博報堂エキスペリンスデザイン
http://www.h-branddesign.com/  博報堂ブランドデザイン
http://www.slideshare.net/gitanez/web-7691019 ソーシャルメディア時代の企業Web戦略