2011年8月6日土曜日

【音楽・エコシステムの話】

最近、音楽とソーシャルとキーワードにした意見交換をしたり、ブログを読ませていただく中、これからの新しい音楽ビジネスの可能性について考える機会が多くなっております。それは環境変化の中で音楽産業の新しいエコシステム(生態系)をどうつくっていけるのか?という問いでもあります。

”エコシステム(生態系)”で辞書検索すると「本来は生物学における生態系を意味する単語だが、近年ではビジネスにおける特定の業界全体の収益構造を意味する」みたいな定義がでてきます。「企業一社による収益構造のことをビジネスモデルというが、エコシステムではモデルを業界内の複数の企業と共に実現する」とも記載されていました。

これからの音楽産業のエコシステムを考えるとき、もはやCDパッケージビジネスのことだけ考えてもしょうがありませんものね。これまで音楽ビジネスは、パッケージビジネスを中心に動いてきました。主なマネタイズポイントがCDを購買いただくことだった訳ですからね。ビデオクリップがレコード会社の宣伝費で制作されるプロモーションビデオとも呼ばれる所以です。
最近の音楽業界の収益は配信、興行、物販など含めてどんどん多様化が進んでいます。でも今のところ音源や画源などを固定化させて大量複製して販売するモデルが中心であることは変わりありません。そんな音楽パッケージビジネス+配信ビジネスの市場縮小が進む中、このまま進むと数年内にパッケージビジネスはライブビジネスに、その規模を抜かれるのではないかとも言われています。
「所有から利用へ」という流れも音楽ビジネスに押し寄せています。AppleやGoogle、SonyやSpotifyなどのクラウド型の音楽サービスもいよいよ活気づいてきました。今後、音楽の楽しみ方が自分の端末だけにStand Aloneに貯めて、というより随時「利用する」という方向に進むと、常に新しい楽曲を制作し、プロモーションして、より多く販売し、回収するという従来型の音楽ビジネスモデルの変容も加速していくような気がします。

考えてみれば、そもそも音楽パッケージビジネスってのは、そんな大昔からあった産業ではない訳です。音楽ビジネスが音源の固定化と、それを再現する再生装置によって大きな発展を遂げたのは、ここ数十年の話です。WikiによればLPレコード、EPレコードの本格普及が1950年代、CD発売が1980年代、iTunesほか配信ビジネス普及は2000年代のこと。この先数年で音楽ビジネスモデルが根本的に変化するかもしれないと想定するほうが妥当なのかもしれません。

そんな中で、新しい音楽ビジネスの可能性ってのはなんなのか。実際問題として次の決定的なビジネスモデルは見つかるのか。産業として食っていけるような音楽ビジネスの新しい枠組みが本当に成立するのだろうか?ということになってきます。

クラウド上での音楽アクセスが可能になりソーシャルWEB上での様々な情報流通が活発化し、音楽と人との新たな出会いが広がり、音楽を通じて人と人がつながる。ライブとソーシャルが連動した新しい音楽体験が生まれる、、そんなわくわくした世界の可能性はきっと広がっているように感じます。
しかし、多くの無料コンテンツが流通するWEB上で、どこかのポイントに情報の関所を設けて課金ビジネスで儲けることは容易ではなくなるように思います。生活者主導のソーシャルメディアに情報流通の重心が移行すると、企業主導での情報コントロールでできなくなります。広告収入もグローバルオープンプラットフォームの会社に主導権を握られそうです。ライブ興行も、うまく効率化していかないと、ほんの一部のビッグアーティスト周辺しか食っていけないことになりかねません。今のシステムで産業の維持ができるのか。

佐々木俊尚さんがある対談講演で、これからのメディア企業はどのように生き残っていけばいいのか?みたいな問いに対して、次のような発言をしていました。「これからのメディアは儲かりませんよ。けど一人くらいなら食っていけますよ。それでいいじゃないですか。」 そもそもメディア産業も音楽産業も大資本で動かす構造を維持しながら、生き残りのためにどうすればいいのか、という発想自体が違っているのかもしれません。

今後、音楽産業やメディア産業がどうやって生き残っていくのかを考えたときに、誰かが大もうけして、ほとんどの人は食っていけない、誰かが権利を囲い込んで、コンテンツや流通が滞ってしまう、ユーザーは不便を感じ続ける、そういう状態では難しいようにも思います。

これから音楽自体の価値がどんどん下がっていくとは考えません。しかし既存の産業構造が維持できるということでもないと考えます。新しい環境の中で、アーティストが音楽をクリエイトできる仕組み、人々が音楽を楽しみ、音楽を通じて、つながりや付加価値を生み出すシステムをこれからつくっていく必要があると思います。

ある本には「森林という生態系では、植物、昆虫、動物など、あらゆる生物と水、空気、土壌などの非生物が相互に作用し合って、生命の循環をつくりだすシステムが保たれています。アフリカのサバンナという生態系では、ライオンなど強い肉食動物とシマウマのような草食動物が、強い動物に食べられて滅んでしまうことはありません。要するに「競争」と「共生」のバランスが絶妙に保たれているということ、、」とありました。 

音楽産業もこれから、そんな新しいエコシステムをつくっていくフェーズに入らないといけないと思います。それは誰か特定の企業や個人だけでなしえるものではなく、きっと業界を超えた知恵による協同、連携によってのみ実現されることだろうと思ったりしてます。

・佐々木俊尚さんのメディア意見
・シェアのビジネスは、人びとのモノに対する態度を「所有」から「利用」へ
・ソニーのMusic Unlimited powered by Qriocity
・Spotify の共同設立者が音楽やソーシャルについて語る
http://jaykogami.posterous.com/spotify-85472
・ソーシャル・ミュージック・レボリューション
http://jaykogami.posterous.com/social-music-revolution
・ソーシャルによって『点』を『線』にし『円環』へ
http://groundcolor.sakura.ne.jp/ground/planet/2011/08/socialcycle.html
・音楽は水のようなもの(MUSIC ON! TV "We believe in Music.")
http://www.m-on.jp/we_believe_in_music/