2011年4月30日土曜日

【エキスペリエンス・デザイン】

「ユーザーエキスペリエンス(顧客経験価値)」みたいな言葉が2000年頃から出てきていました。商品やサービスが成熟していくなかで、機能や性能で差別化することができなくなってきました。パソコンもテレビもケータイも車も、どのメーカーのものでもそんなに本質的な差はなかったりします。銀行も電話会社などサービスもそうです。そんな中でユーザーに提供する機能ではなく、ユーザーに提供するベネフットに重きがおかれるようになってきたということだと思います。

あるアメリカの地方銀行が、大手銀行とは商品力や価格では勝てないと認識し、雰囲気の良い店舗、行員の接客など、銀行を利用する過程での顧客満足度を高める戦略をとり5年で預かり資産を約3倍に増加させたという事例があるそうです。サービスにまつわるユーザーエキスペリエンスを高めたということですよね。

1980年代のソニーは新しい製品を生んだのでなく、次々と新しいユーザーエキスペリエンスを生んだと言えると思います。Walkmanは「家の中で聴く音楽を自由に外に持ち出す文化」を創り出しました。ビデオデッキは「連続ドラマを見るために放送時間までに家に帰らなければならない」という常識を変え、8ミリビデオは「自分の子供の成長を簡単に記録するのは写真以外にはない」という当時の妥協を打ち破りました。

今、Appleが熱狂的に支持されるのは、優れたユーザーインターフェイスを持つデバイスやアプリケーションとクラウド上のサービスを一体的に統合し、ユーザーにこれまでなかったようなわくわくする経験を提供しているからですよね。

昨今のソーシャルメディアの普及、クラウド化、デバイスやサイネージなどのユーザーインターフェイスの進化によって、冒頭の「エキスペリエンス」がまたキーワードになってきていると感じます。

前回もふれたとおり、今後、商品やサービスはユーザーに新しい体験、より快適で充実した体験を提供できるか、そのお手伝いができるか否か。それが競争力の本質になると思います。音楽ビジネスもメディアビジネスもエンターテイメントビジネスも同じです。本質的に考えないといけないのは、届けるコンテンツの種類や伝送路、デバイスの機能の話ではないと思います。

ユーザーはテレビやパソコン、ガラケーなど従来型のデバイスのみならず、iPhone、Androidなど多機能デバイスとその搭載アプリ、リアルな場でのデジタルサイネージのデバイス等、多様化、オープン化したインターフェイスからいつでも簡単にメディア空間へアクセスできるようになりました。そこに制約があった時代は、例えば企業は自社のWEBサイトを用意して、そこに至る導線を敷いて、いかに多くのユーザーを誘導できるかを競争すればOKでした。クリック数が成果だったりしたわけです。

しかし、もはやそういう時代ではなくなりつつあります。企業は公式ホームページを一つ作って終わりではなく、ユーザーが保有する多様なインターフェイスに自分から出て行って近づいていく必要がでてきました。そしてソーシャルにつながったコミュニティにお邪魔しなければいけません。そこでは信頼なくしては誰からも相手にされなくなります。

音楽やエンターテイメントでもユーザーに満足してもらうためには、どんな優れたコンテンツを提供するかということだけでなく、どんな優れたエキスペリエンスを提供できるのか、そのために何をすればいいのか、そんな「エキスペリエンス・デザイン」を考える必要がでてきているのではないかと思います。

出所:NRI 知的資産創造 2011.1 
















参考)
http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/2011/pdf/cs20110103.pdf
http://www.atmarkit.co.jp//fitbiz/serial/xp/01/01.html
ITロードマップ2011年版

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前回はバーチャルワールド、マトリックスへのジャックインなエキスペリエンスの話をしましたが、同じくシュワちゃんの映画で「トータルリコール」っていうのがあります。そこに登場するリコール社っていうのは、記憶を売る会社、エキスペリエンスを売る会社っていう設定です。実際に火星に行くかわりに、記憶を機械的に操作し、火星旅行のバーチャル体験ができる。違う自分になる様々なオプションもお金で選択できる、諜報員になって危険な任務をこなし、魅力的な女性と恋に落ちるってことも。これこそ究極のエンターテイメントメディア会社の姿かもと思ったりします。